あとがきからの抜粋
あるきっかけで、埼玉県に住む加藤みどりさんの存在を知りました。
加藤さんは、捨て犬の命を守るために、自分の生活すべてを捧げ、保護活動をしている方です。
その加藤さんの話を檀家の方々と一緒に聴きたいと思い、全く面識がなかったにもかかわらず、直接電話をかけ、講演のお願いをしました。最初は、忙しいからと断られましたが、何とかお願いして、平成八年十二月一日にお寺で講演会を開くことができました。
講演会には、檀家の方々だけではなく、愛犬家の方々も多数参加してくれました。
加藤さんの自分を犠牲にして、保護活動をする姿に、参加者一同、心を打たれたのでした。
私は、加藤さんの講演を聴いて、仏典童話にあるオウムの話を思い出しました。
インドのヒマラヤの中に森があり、たくさんの動物たちが助け合いながら、なかよく暮らしていました。その森が火事になってしまいました。火はあっという間に燃え上がり、動物たちは必死で逃げました。
そんな中、一羽のオウムが山のふもとにある池に向かったのです。オウムは、池に飛び込み、羽をぬらすと、燃えさかっている森に戻りました。そして、燃えている火の上へ行くと、羽ばたいて羽に残っているわずかな水のしずくを降りかけ、火を消そうとしたのです。
オウムはそれを何回も何回もくり返し、疲れ切って息も絶え絶えになってしまいました。
そんなオウムの姿を見ていた天の神さまは、こう言いました。
「おまえの運んだ羽の水ぐらいで、この火事が消せるわけはないよ、無駄なことは止めなさい」
しかし、オウムはこう答えたのです。
「消せないことはわかっています。でも、私は、この森のおかげでこれまで暮らしてこられたのです。だから、ただ何もしないで、森が焼けてしまうのを黙って見てはいられないのです」
天の神さまは、オウムの話を聞いて深く頷き、大雨を降らせて火事を消したのでした。
加藤さん一人の力だけでは、日本中にいる何十万匹という不幸な犬すべてを救うことはできません。
でも、「目の前にいる一匹の犬の命を救いたい、救わずにはいられない」・・・・・そんな心からの行いは、まさに先ほどの話に出てくるオウムの行いと根は同じです。
私は講演を聴いて、「加藤さんは、不幸な犬たちにとっては、まさに観音さまです」と加藤さんに手を合わせたのでした。
講演のあと、私は加藤さんに、「せっかく岩手県までお越し頂いたのですから、宿を用意していますので、温泉につかって、ぜひ疲れを癒してください」と申し上げました。
しかし、加藤さんは「家には保護している犬たちがいるから」とすぐに埼玉県に帰っていったのです。